低血糖症の症例
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低血糖症の症例

サンプル 1.(無反応性の慢性疲労患者)

29 歳男性。 10 代からの症状。 極度の眠気と疲れやすさ。

低血糖症の症例_2

血液検査数値:

WBC:3,500/RBC:504/Hb:14.9/Ht:47.4/MCV:94/MCH:29.6/MCHC:31.4/TP:7.9/ALB:4.7/AST:18/ALT:19/T-cho:207/HDL-cho:54.4/β-Lp:380/Fe:137/ フェリチン :222

血糖値 1 (黒線) は、 治療開始前ですが糖負荷後反応が出ていません。 インスリンの分泌も通常より低いのですが、 血糖値は正常範囲内で、 曲線は平坦です。 患者さんは 10 代頃から体調が悪く、いつも眠く (特に昼食後)、 だるかったそうです。 食後の眠気が患者さんの主な症状です。

 

栄養療法前の血糖曲線は無反応性血糖曲線です。 この曲線では1 時間後のインスリン値の上昇より、 大きな山は 1 時間前後に 1 つ、120 分でもう 1 つあると思われますが、 血糖値の上昇下降が急速に行われているため 30 分ごとの測定では捉えられません。

 

インスリン値は正常範囲内ですから、 この患者さんはインスリンの効きが良すぎる体質で、 通常のインスリンの量でも血糖値の下降が急激に行われてしまうものと考えられます。 またこの患者さんは頑固な便秘で 7 日間も排泄しないことがあったそうですが、 低血糖では交感神経刺激となるため腸のぜんどう運動は低下し、 便秘をおこす一因ともなります。 副交感神経は腸のぜんどう運動を促しますので、深呼吸をしたり、 腹筋を強くしたり、 副交感神経の神経伝達物質であるアセチルコリンのもとであるレシチンを摂ることは良いことです。

 

治療としてビタミン C を 1 日に 6g 投与し、 その 2 ヶ月後にはカルシウムとマグネシウムを増やし、 さらに 2 ヶ月後の糖負荷試験では反応性低血糖症 (血糖値 2:グレー) となっています。 インスリン分泌も改善しています。 本人もこのころより体調が良くなったと言っています。

 

栄養療法後、 無反応性から反応性になった事が進歩の一つでした。 負荷後 30 分でのインスリンの上昇が見られず、 最高値が負荷後 1 時間となっています。 このような、 インスリン分泌の遅れや初期のインスリン分泌不足は、 糖尿病家系によく見られ、 遺伝的体質が考えられます。

サンプル 2.(反応性の精神神経症患者 ・ 副腎疲労)

23 歳男性。 健全な精神と幸福な家庭を持っているが、 原因不明の自殺観念をもって来院。 その他、 対人恐怖症、 緊張感、 朝起きた時の動悸、 光線過敏症、 足のむくみなどです。

低血糖症の症例_6

血液検査数値:
WBC:4,000/RBC:511/Hb:15.2/Ht:44.6/MCV:87/MCH:29.7/MCHC:34.1/TP:7.4/ALB:4.9/AST:22/ALT:16/ALP:235/T-cho:166/HDL-cho:64.9/β-Lp:254/TG:48/UA:6.4/BUN:11.6/CREA:1.0/Fe:118/ フェリチン :222

このような血糖の異常な急降下 (ストレス) に際して、 視床下部が指令を出して、 脳下垂体副腎系に働きかけ、 血糖を上昇するよう促します。 また、 視床下部は自律神経に働きかけ、 グルカゴンやカテコーラミンの分泌を促して血糖値を上昇させるようにします。 副腎は、 腎臓のすぐ上に帽子のようにかぶさっている、 重さ 5 ~ 7g 位の臓器でストレス時にホルモンを分泌して身体がストレスに対処できるよう働きます。すなわち副腎髄質より分泌されるカテコ一ラミン(アドレナリンやノルアドレナリンなど) により肝臓に蓄積されたグリコーゲンは糖に変わり、 また皮質より分泌されるコルチゾールによりタンパクは分解されて糖に変わり、 血糖が上昇します。 カテコーラミンは身体と心に緊張感を招き、 血管を収縮させ胸部痛や動悸を起こす事もあります。 また不安感を刺激して、 イライラ感や落ち込みを起こします。 自律神経にも作用して胃液の分泌を促し、 それがインスリン分泌をも促します。

 

低血糖時には副腎からコルチゾールが分泌されますが、 関節炎・アレルギー疾患を持つ患者さんではその量が不足して、 低血糖症状や関節などの症状が重くなることがあります。 このような状況が絶えず繰り返されると副腎が疲れてきて他の副腎皮質ホルモン、 アルドステロンの分泌にも不調和をきたします。 この男性は両足がむくんでいましたが、 これは低血糖症に伴って分泌されたアルドステロンが上昇して尿細管でのカリウム排泄増加を起こし、 ナトリウム、 クロールの再吸収を促したためと考えられます。 この患者さんのように血糖値の急落が激しいほど、 カテコーラミンの分泌も急上昇すると考えられ、 脳神経の興奮が激しくなり、 セロトニンなど興奮を抑制するホルモンが間に合わず、 自殺観念などの症状を起こすに至ったと考えられます。

サンプル 3.(甲状腺機能低下症患者)

中 1 女子。 低栄養による甲状腺機能低下。

低血糖症の症例_10

血液検査数値:
WBC:3.200/RBC:432/Hb:13.4/Ht:40.8/MCV:94/MCH:31/MCHC:32.8/TP:7.1/ALB:4.8/AST:24/ALT:18/ALP:154/AMY:55//T-cho:393/UA:4.1/BUN:19/CREA:1.0/Fe:88

低血糖症検査の前に 1 回だけの検査で血糖値 34mg/dl を記録しました。 血糖値が低いにも関わらずインスリンが出過ぎているからです。 3 ケ月間の極端なダイエットをしたことが栄養障害をおこし、 それがすい臓や甲状腺の機能低下をおこしたと考えられます。 皮膚は乾燥変色し、 膝関節は腫れていました。 このように栄養障害が組織や神経にも障害を起こしました。 甲状腺ホルモンは腸管からの糖吸収を促す働きをするので、 ホルモン量が低下していると、 腸からの糖吸収が順調にいきません。

 

血糖曲線をみると、 食前の血糖値 73mg/dl に比べ、 30 分後では122mg/dl と 1.67 倍まで上昇 (正常) していますが、 その後 120 分~240 分後まで血糖値は 60mg/dl 台でいずれも低くなっています。 血糖値が低いにもかかわらずインスリンは不必要に出ています。 インスリンはブドウ糖の細胞内への輸送を促進します。 糖の濃度が低いため細胞に充分な糖を供給することができません。 身体の要求が必然的にインスリン分泌を促したのでしょう。 しっかりと栄養療法を行い、 約半年で元気になりました。

 

 

サンプル 4.(無反応性インスリン過剰分泌)

30 歳の大学院生。 胸部痛発作、 神経症、 極度の眠気、 錯乱等を訴えて来院しました。

低血糖症の症例_14

血液検査数値:
WBC:7,100/RBC:488/Hb:16.2/Ht:46/MCV:94/MCH:33.2/MCHC:35.2/TP:6.9/ALB:4.7/AST:22/ALT:17/T-cho:165/HDL-cho:48.4/β-Lp:378/TG:178/UA:3.8

胸部痛発作の為、 色々な病院で心臓検査をしましたが異常が見つかりません。 大学病院で精神安定剤を処方してもらっていました。問診の結果、 不規則な食事と睡眠不足、 毎晩夜中 2 ~ 3 時まで飲酒をするといった状況が 3 年間も続いた事が分りました。 論文を仕上げる時期が迫っていることでストレスもありました。 診察時、 手指の震せんがありました。

 

糖負荷後インスリンは通常の数倍急速に分泌される為、 血糖は上がるどころか逆に下がっています。 これは長い間すい臓を酷使したため、 すい臓が過敏になり、 血糖値の上昇に対して、 インスリンを過剰に分泌するようになった結果です。 このように異常に血糖値が低下すると、 副腎より血糖値をあげるため、 急激にアドレナリンが分泌されて、 その結果、 心臓の冠動脈を収縮させ、 狭心症発作に似た痛みを起こしたものと考えられます。 未精製の穀物を摂ったり、暴飲暴食を止めたりするなどしてすい臓を休ませ、 すい臓機能の回復をはかり、計画的に運動を行なうようにしました。

 

3 ヶ月ほどして、 胸部痛はなくなり、 自分自身が自信をもつようになり、 手指の震せんは 1 年半かけてようやく全治しました。 急に吸収されたブドウ糖はそのままエネルギーに結びつくとは限らず、 一部は細胞質内で脂肪化し、 皮下脂肪や内臓脂肪に変化します。 特に、インスリン分泌が過剰になされると、 ブドウ糖が脂肪になりやすく、この男性も肥満傾向にありました。 糖や脂肪をエネルギーに作りかえるためには、 ビタミン B 群などの補酵素が必要となってきます。 アルコールは血管の開閉の調節に有用なマグネシウムやカルシウム、すい臓機能に欠かせない亜鉛の尿中排泄を促します。 ストレスも低血糖症を悪化させる要因となります。

サンプル 5.(インスリン異常分泌)

50 代の主婦。 極度のだるさと疲れ、 上腹部痛があり 20 歳頃より検査を受けてきましたが、 原因がわかりません。 肝臓病や感染症の診断で毎日点滴治療を受けたこともありましたが症状は改善しませんでした。

低血糖症の症例_18

血液検査数値:
WBC:5,200/RBC:471/Hb:13.8/Ht:42.3/MCV:90/MCH:29.3/MCHC:32.6/TP:7.4/ALB:4.7/AST:18/ALT:14/ALP:234/T-cho:194/HDL-cho:63.8/β-Lp:327/TG:52/UA:3.6/BUN:18.4/CREA:0.7/Fe:76/ フェリチン :58

当クリニックで糖負荷検査後、 低血糖症の診断を受けてから栄養療法を行い改善しました。 体調の悪い時には外出もできませんでしたが、 今では世界各国に旅行に出かけています。 この患者さんの臨床診断には低血糖症のほか、 慢性すい炎、 軽い貧血、 更年期障害がありました。

 

この血糖値では 2 ケ所、 血糖値の急激な低下があります。 いずれも 1 時間以内に 50mg/dl 以上の下降を示し、 インスリン分泌も不安定です。 診断基準の③ (P79 参照) が当てはまります。 お嬢さんも低血糖症でしたが、 低血糖症の患者さんの多くに遺伝的要因が見られます。 数値では、 Fe (血清鉄) とフェリチンが幾分低く、 軽い鉄欠乏性貧血を呈しています。 低血糖症に貧血が合併すると症状が重くなることが多く、 しっかりと治療を行う必要があります。 鉄は TCA サイクルでブドウ糖を燃焼させる役割をするほか、 電子伝達系では酵素として重要な働きをしているからです。 脳内の神経伝達物質の流れを促しその機能をスムーズにする働きもがあります。 この患者さんのように、 低血糖症と合併する症状を診断し、 同時に治療してゆくことも大切です。

サンプル 6.(女性、 境界型糖尿病と反応性低血糖症の合併)

23 歳の女性。 インスリン過剰分泌にも関わらずインスリンが効きません。 症状では極度の眠気とだるさ、 食欲増進、 情緒不安があります。 1 日 14 時間以上眠るという状態でした。

低血糖症の症例_22

血液検査数値:
WBC:7,300/RBC:410/Hb:12.2/Ht:39.6/MCV:97/MCH:29.8/MCHC:30.8/血小板 :24.6/TP:7.5/ALB:4.5/AST:18/ALT:20/ALP:4.9/AMY:31/T-cho:174/HDL-cho:40.6/β-Lp:381/TG:109/UA:4.7/BUN:10.5/CREA:0.6/Fe:131/ フェリチン :19

負荷後インスリンの立ち上がりが悪く、 またインスリンの効きも悪いため、 血糖が 200mg/dl 以上になり境界型糖尿病を発症しています。 インスリン分泌が乱れているだけでなく、 インスリンの分泌量も多くタイミングも不適切な為、 90 分と 240 分では、 血糖が急に下降し最低で 59mg/dl と低い値になっています。 このような異常事態に対し副腎からホルモン分泌を行い対処します。 アドレナリン、 ノルアドレナリン、 コルチゾールと同時に、 アルドステロンも分泌されます。

 

低血糖症ではアルドステロンが高い場合が時々みられるのはこのような理由によります。 この例は、 境界型糖尿病と低血糖症の合併ですが、 同様に糖尿病と低血糖症の合併は少なくありません。 糖尿病は 2 時間までの負荷試験で血糖値の変化を確認します。 しかし、 血糖降下剤の効果は服用後 3 ~ 4 時間がピークになるものが多いので、 この症例のように負荷後 4 時間で 59mg/dl まで下がるようなタイプは血糖降下剤の利用によって血糖値がさらに下がり、 低血糖症の症状を悪化させないとも限りません。

 

血清鉄は 131mg/dl と正常ですが、 Hb12.1g/dl とやや低くフェリチン値は 19ng/ml とかなりの低値のため、 鉄欠乏性貧血があります。 貧血は精神症状を悪化させるので、 しっかりと改善することが大切です。

サンプル 7.(小学男子、 糖尿病型と反応性低血糖症の合併)

小学 6 年男子、 4 歳の頃より情緒不安と学習障害のため通常の生活、 通学が出来ない状態がありました。 学習障害と診断されていましたが、 IQ は非常に高いです。 検査の最中、 待合室では大声でどなり、 情緒が非常に不安定でした。 母親の協力で、 最後まで検査を行えましたが負荷後 30 分値は測定できませんでした。

低血糖症の症例_26

血液検査数値:
WBC:7,700/RBC:466/Hb:13.4/Ht:38.9/MCV:84/MCH:28.8/MCHC:34.4/血小板 :21.1/AST:25/ALT:11/T-cho:165/HDL-cho:75.1/β-Lp:262/TG:33/UA:5.5/BUN:14.6/CREA:0.6/Fe:87/ フェリチン :54

血糖曲線は負荷後 1 時間で血糖値が 223mg/dl と高く、 インスリンが 50 μ U/ml と正常に分泌されていますが、 インスリン抵抗性のある糖尿病型曲線です。 その後 90 分のインスリン値が 59.1 μ U/ml とやや高いために 60 分~ 90 分の間に血糖値は 66mg/dl も降下しています。 120 分のインスリン値は 51.7 μ U/ml、 150 分では59.1 μ U/ml です。 ところが 150 分での値が高すぎるためその後血糖値の降下がとまらず 240 分で血糖値は 45mg/dl まで降下しています。 インスリンの効き方には特徴があり、 ある値の範囲内ではあまり効きませんが、 少しでもその値を超えると急に効果が出てくるものです。

 

この方も適切な量のインスリン分泌ができず低血糖を招きました。この際、 視床下部が低血糖と感知し、 ホルモンの一つであるアドレナリンを分泌するよう指令します。 こうした状況では、 このホルモンが脳の情動を司る大脳辺縁系を刺激し感情の興奮を刺激する一方、大脳皮質に十分なブドウ糖が届かず更にノルアドレナリン濃度の急激な上昇により理性的判断を行う脳の前頭葉の働きが麻痺状態となるため、 感情のコントロールが難しくなり、 この患者さんのように感情的な発言や行動に至ってしまいがちです。

 

アドレナリンは攻撃的な感情を刺激し、 ノルアドレナリンは消極的な感情を刺激しやすいです。 インスリンの感受性が低い理由の一つとしてリセプターの構造と機能の異常、 インスリン抗体の存在など先天的な体質があげられます。 リセプターの感受性を高めるため、運動、 耐糖能因子の増強、 ビタミン C 投与などが有用です。 フェリチンが 54ng/ml と軽い鉄欠乏があり、 治療を必要としました。

 

この少年は学校では 1 人で授業に出られず、 いつも母親と登校して図書館で学んでいました。 栄養療法を行い始めてから 2 ヶ月で落ち着きがでてくるなど回復の兆しが見え、 半年ではまだ自殺観念がありましたが次第に柔和な性格となり診察時も普通に会話をし、 半年後には 1 人で学校に行けるようになりました。 3 年後の糖負荷試験では 1 時間値 169mg/dl、 4 時間値が 60mg/dl の反応性曲線と改善していました。 時々落ち込むことはあっても普通の高校生として歩み、 その後大学生に進学されました。 既往歴にアレルギー性湿疹があり、 家族歴に甲状腺疾患の方がいます。 このように低血糖症にアレルギーを伴うことはよくあります。

 

栄養治療:ナイアシン (ニコチン酸アミド) 0.2 ~ 0.3g / 日、 ビタミン C 2 ~ 3g / 日、 ビタミン B コンプレックス 100mg / 日、 ビタミン B6 30mg/ 日、 ビタミン B5 300mg / 日、 ビタミン B2 30mg / 日、 亜鉛50mg / 日、 ベイスン (医薬品) 0.2mg 2 錠 / 日、 プロテイン 20g /日

サンプル 8.(インスリン分泌異常と貧血)

小学 5 年男子。 登校拒否を主訴に来院しました。 学校に行っても授業に出ると疲れ、 いつも保健室通いでした。 食生活は肉に偏り、野菜は殆ど食べていません。 ジュース類は好きでよく飲んでいました。 診察室では質問にうなずいていることが多く、 素直でうつ症状はありませんでした。

低血糖症の症例_30

血液検査数値:
WBC:6,500/RBC:460/Hb:12.8/Ht:40.6/MCV:88/MCH:27.8/MCHC:31.5/血小板 :40.3/TP:7.7/ALB:4.5/AST:22/ALT:15/AMY:129/T-cho:210/HDLcho:70/β-Lp:394/TG:113/UA:4/Fe:56/ フェリチン :14.1

血糖曲線は、 負荷後 30 分で血糖値が 131mg/dl でしたが、 なんとインスリンが 89 μ U/ml も分泌されたために、 その後 1 時間で73mg/dl も血糖値が低下し、 その後のインスリン分泌は急減しています。 そうしているうちに再び血糖値が上昇し、 インスリンは普通以上に出ていますがブドウ糖の細胞への取り込みはゆるやかで、 インスリン抵抗性があります。 授業に出ていても、 身体のこうした異変が情緒を不安定にし、 脳を混乱させたなどの理由で授業を続けることができず、 保健室に行っていたのだと思います。 家族歴では、 お父さんに甲状腺機能亢進症と反応性低血糖症があります。 このように低血糖症では家族歴に耐糖能異常や血糖調節に関与する疾患を持つ患者さんが多いです。 食事と栄養素摂取、 貧血の治療を行い約 4 ヶ月後、 学校にも順調に通えるようになり症状も改善されていきました。 後日、 夏に清涼飲料水を多く飲んだ後、 低血糖症の症状が再発したと言って母親が治療を求め来院されました。 フェリチン値は 14.1ng/ml と低く、 貧血の治療を低血糖症の治療と同時に行うことで、 回復が早くなったと思われます。

 

 

サンプル 9.(インスリン分泌異常)

中 3 男子、 小学生のころより物忘れが激しく、 小 5 の時には他の人とあまり話をしなくなりました。 中 1 の 2 学期に無気力となり、 学校は午前中に起きられない為、 午後から登校していました。 友達との会話中、 言葉が出なくなり考えもまとまりません。 次第に、 外にでるのが怖くなり不登校となり、 当院に来院しました。 おやつは幼少時よりあめを 2 日で 1 袋、 来院時はジュース 1 日 5 本、 板チョコ1 日に 2 枚、タバコ数本を摂っていました。 食事は 1 日 2 ~ 3 回です。

低血糖症の症例_34

血液検査数値:
WBC:6,510/RBC:526/Hb:15/Ht:47.2/MCV:90/MCH:28.5/MCHC:31.8/ 血小板 :28.8/TP:7.9/ALB:4.9/AST:31/ALT:45/AMY:103/T-cho:175/HDLcho:58/β-Lp:321/TG:72/UA:5.3/BUN:13.6/CREA:0.9/Fe:96/ フェリチン :31.5/HbA1c:4.5

検査の結果、 低血糖症のほか、 鉄欠乏性貧血 (フ ェ リチン31.5ng/ml)、脂肪肝 (AST < ALT) がありました。 糖負荷試験で、負荷直後のインスリン過剰分泌による血糖値の急落、 その後、 血糖値の上昇時のインスリン過剰分泌による 2 度目の急落が特徴です。砂糖の摂りすぎによりすい臓の機能失調を起こしたため、 すい臓が血糖値に対し過剰なインスリンの分泌を行い、 血糖値を急落させています。 低血糖時脳神経の活動が低下し、 ノルアドレナリンの影響で不安感が増強し、 次第に不登校となったと考えられます。 お母さんの話によれば、 患者さんは小学生のころから時々、 気が遠くなるような症状を起こしていたそうです。 こういった事も低血糖の症状の1 つと考えられ、 この患者さんの低血糖症発現は小学生のころと推測します。 食事と栄養治療により改善し、 4 ヶ月後の高校受験にも合格できました。

サンプル 10.(自傷行為に貧血を合併した低血糖症)

無気力と自傷行為を主訴に来院した中 3 の女子です。

低血糖症の症例_38

血液検査数値:
WBC:7,290/RBC:432/Hb:13.6/Ht:43.5/MCV:101/MCH:31.5/MCHC:31.3/血小板 :27.5/TP:7.7/ALB:4.9/AST:20/ALT:10/AMY:140/T-cho:89/HDLcho:73/β-Lp:308/TG:61/UA:3.8/BUN:2.4/CREA:0.8/Fe:94/ フェリチン :15.7/HbA1c:4.3

自殺観念があり、 親が見かねて診察につれてきました。 手首にはナイフで傷つけた跡がいくつも見られました。 こちらの質問にゆっくり話すことはあっても話し始めまで時間がかかり、 自分から積極的には話そうとしません。 問診では、 日中の眠気、 集中力がない、 呼吸が浅い、 胃腸が弱い、 イライラや落ち込み、 眼のかすみや疲れ、敵意や恐怖心、 甘いものが食べたくなる、 不眠、 自殺観念などの頻度が高いと記されていました。

 

検査結果は、 潜在性鉄欠乏性貧血 (フェリチン 15.7ng/ml) と低血糖症 (診断基準③、 ④:P79 参照) です。 負荷後、 インスリン過剰分泌によって早くも 1 時間で 64mg/dl にまで血糖値が急落し、再び、 120 分で 97mg/dl まで上昇していますがインスリン過剰分泌があり 73mg/dl にまで再び降下しています。 試験中、 血糖値は 3つの山のあるジグザク曲線を呈しています。

 

症状の中で、 日中の眠気や集中力のなさ (エネルギー産生の低下)、 呼吸が浅い (呼吸中枢での神経伝達物質の分泌に異常)、 胃腸が弱い (消化酵素量の減少、 小腸粘膜での吸収力の低下) などは低血糖症にも貧血にも見られる症状です。

 

イライラ、 落ち込み、 敵意、 甘いものへの渇望、 自殺観念、 眼のかすみなどは低血糖症に特有の症状で、 症状の発現には血糖値の変動に伴う時間的な変化があります。

 

負荷後のインスリン過剰分泌により血糖値が急落し、 再びホルモンの力で血糖を上昇させようとすると再びインスリン過剰分泌が起こり、 血糖値が急落します。 脳は身体全体の血糖の 20 ~ 30%を消費するので、 低血糖状態となると、 脳を守るため眠気が襲ってきます。 また、理性を司る分野 (大脳皮質) に栄養が行かないため (外側にある)、 理性の働きが鈍ってきます。

 

低血糖時には、 まず生命維持にかかわる間脳 (視床下部など)にブドウ糖が分配されるため、 一層大脳皮質の血糖値が低くなり、理性的判断が困難となります。 ノルアドレナリンの濃度の急上昇により前頭葉が麻痺状態となり更に状態を悪化させます。 他方、 血糖値を上げるため分泌されたアドレナリンやノルアドレナリンが情動を司る脳の分野 (大脳辺縁系) を刺激するため感情的興奮 (怒り、憎しみ、 敵意、 焦燥感、 恐怖感、 落ち込み、 悪夢、 不眠、 自殺観念)が起こりやすくなります。

 

血糖値の急落時、 脳内でアドレナリンやノルアドレナリンの濃度が増えて正常な思考ができなくなり、 うつや自傷行為などの精神症状を招いたと考えられます。 鉄分は含鉄酵素として代謝を促進すると同時に神経伝達物質の分泌にも関与します。 低血糖症に貧血が合併するとより重い症状となりえます。 食事療法と栄養療法を始めて2 ヶ月半後ようやく元気を取り戻し笑顔も出てきて勉強もするようになりました。 易疲労感はみられましたが自傷行為はなくなり、 学校にも通い始め、 3 ヶ月後には勉強に身に入るようになり、 4 ヶ月後の高校受験で第一志望校に合格できました。 母親の適切な看護も娘さんの回復に大きな力となりました。 アドレナリンやノルアドレナリンを抑制するセロトニンはトリプトファンから補酵素であるビタミン B6、Mg の助けにより作られる為、 それらの栄養の摂取は必要です。

 

栄養治療:プロテイン 10g/ 日、ビタミン B コンプレックス 175mg/ 日、ヘム鉄 15mg/ 日、 ナイアシン 1.5g/ 日、 ビタミン C3g/ 日

サンプル 11.(食後体調不良をおこす無反応性低血糖症)

女性 30 歳、 食べている間と食直後にだるさ、 眠気、 冷汗、 動悸など低血糖症症状が出現。

低血糖症の症例_42

血液検査数値:
WBC:6,310/RBC:491/Hb:15.3/Ht:48/MCV:98/MCH:31.2/MCHC:31.9/ 血小板 :29.2/TP:7.3/AST:22/ALT:17/ALP:240/AMY:96/T-cho:206/HDLcho:71/TG:58/UA:2.5/BUN:12.6/CREA:0.67/Fe:144/ フェリチン :90.7/HbA1c:4.3

症状の重い時には、 食後の片付けの間に眠ってしまったこともありました。 冷汗、 動悸はアドレナリンの交感神経刺激症状です。 易疲労感がいつもあり眠りは浅く、 就眠中も夢をよく見ることが多くありました。 血糖曲線は負荷後の最高値が 97mg/dl と低値であり、 検査を始めてまもなくふらつき、 動悸、 体温の上昇を訴えていることより血糖値の最高値は負荷後 30 分までにあると推測できます。 インスリンの過剰な分泌により血糖値は 60mg/dl にまで下がっています。180 分で 82mg/dl まで上昇した血糖値も 51mg/dl まで降下し全体的に血糖値の上昇する時間が短く平坦なカーブとなっています。 この方のインスリン値は正常範囲であるにもかかわらず血糖値の急落を起こしており、 ブドウ糖の上昇に伴うインスリン分泌が通常より急におきること、 効き方がより速やかであることなどが予想されます。

 

血糖値の急落に伴いアドレナリンやノルアドレナリンの分泌がその都度おこるため、 就眠中に大脳皮質が眠っていても大脳辺縁系の働きが静まらないため、 浅い眠りとなったのです。 この患者の父親は糖尿病があり、 こうした血糖調節の異常に何らかの体質的な素因が関与していると考えられます。 グラフにあるようなインスリン分泌の遅延もその現れであると考えられます。 本人によると検査した結果を見て、 初めて食後の眠気や冷汗の原因が納得できたということです。

 

この方は胃腸が弱く便秘がちでもありましたが、 コエンザイム Q10を服用後胃腸の機能は改善しました。 交感神経が緊張すると腸のぜんどう運動が低下し、 便秘になりがちです。 体全体の酵素の働きを助ける栄養素を摂ることで身体全体の冷えも改善しました。

 

栄養治療:プロテイン 10g/ 日、 ビタミン B コンプレックス 150mg /日、 ビタミン C 3g / 日、 コエンザイム Q10、 カルシウム 400mg / 日、マグネシウム 200mg/ 日、 ギムネマ 900mg / 日、 亜鉛 45mg/ 日、ナイアシン 1.5g/ 日、 ビール酵母

サンプル 12.(アルコール依存を伴う低血糖症)

男性 29 歳、 仕事が手につかず、 体調不良、 不眠とうつ症状にて来院。 来院当時、 考えがまとまらず会話が普通にできない状態でした。 本人によると相手の話が気になりだすと止まらず自分の感情が抑えられないといいます。 酒は 1 日ビール 3 缶を朝から飲み、 煙草2 箱を吸っていました。 後頭部痛があり、 筋肉の凝りも強いのです。

低血糖症の症例_46

血液検査数値:
WBC:6,440/RBC:502/Hb:16/Ht:49.1/MCV:98/MCH:31.9/MCHC:32.6/ 血小板 :22.7/ALB:4.3/AST:20/ALT:32/ALP:198/T-cho:161/HDL-cho:39/β-Lp:308/TG:85/UA:4.5/BUN:14/CREA:1.0/Fe:64/HbA1c:4.6

糖負荷試験を実施すると、 負荷後 30 分~ 90 分の間に血糖値は49mg/dl 降下しています。 これは 30 分後のインスリン過剰分泌の為ですい臓の疲労が原因です。 その後血糖値は低迷を辿りようやく 5 時間後に 81mg/dl に上昇しました。 この間、 血糖値を上昇させるホルモンは分泌されており、 インスリンが過剰に分泌されているた

 

め実際の血糖値は上昇できずに低いままで留まったと考えられます。すぐに血糖値が上昇するタイプよりアドレナリンやノルアドレナリンがより多く分泌されていると言う点で重症といえます。

 

HbA1cが 4.6%であるため日常的に血糖値が低いことが伺えます。そのためアルコール依存度が強くなるとともに煙草や甘い物が欲しくなってしまい、 それらの摂取により低血糖がおき、 感情の興奮を繰り返す状態から抜けきれません。 本人にとって、 これらの飲食が本人の感情の興奮をもたらす原因となっていることを気づかずに、 欲求のままに飲食し自分の体力と精神を窮地に追い込んでいたのです。 アルコールは腸からのビタミン B6 の吸収を抑制し、 脳の興奮を鎮める神経伝達物質であるセロトニンや GABA の生成に不利な状況をもたらします。

 

食事と栄養治療を始めて 1 ヶ月後、 アルコールは 1 日ビール 1 ~2 本、煙草は 20 本/日に減り、肩の凝りも次第になくなりました。 2 ヶ月後、 煙草は 1 日数本のみ、 断酒し、 地域のボランティアに出席するなど気持ちも前向きになってきました。 3 ヶ月で体調が改善してきたので運動 (水泳) を 1 日おきにして、 体力を養いました。 現在、看護主任として働いており、 充実した日々を過ごされております。

 

栄養治療:プロテイン 30g/ 日、 ビタミン B コンプレックス 75mg/ 日、ビタミン C3g / 日、 ビタミン B6 210mg / 日、 ビタミン B2 60mg/ 日、 ビタミン B1 150mg / 日、 ビタミン B12 1.5mg / 日、 ビオチン 400mg / 日、 亜鉛 45mg / 日、 ナイアシン 1.5g / 日

サンプル 13.(精神疾患に貧血を伴う低血糖症)

女性 26 歳、 精神不安と月経前緊張症が強く、 精神科で通院しながら、 内服薬治療を受けていた患者さんです。 吐き気や消化不良など胃腸障害もあります。

低血糖症の症例_50

血液検査数値:
WBC:3,560/RBC:400/Hb:12.2/Ht:38.5/MCV:96/MCH:30.5/MCHC:31.7/血小板 :23/TP:7.8/ALB:5.0/AST:16/ALT:15/ALP:146/T-cho:152/HDLcho:76/β-Lp:186/TG:47/UA:1.5/BUN:11.2/CREA:0.8/Fe:110/ フェリチン :17.8/HbA1c:4.4

糖負荷試験では負荷後 30 分~ 90 分で 52mg/dl の血糖低下があり、 60 分~ 120 分で 50mg/dl の血糖低下があります。 さらに血糖値は 44mg/dl にまで下降してゆきます。 これは、 負荷後 60 分で197 μ U/ml のインスリン分泌過剰がもたらした結果です。 こうした状況ではノルアドレナリンが血糖値をあげるために分泌され、 精神不安を強くします。 この患者さんは不安感がいつもありました。 大勢の人のいるところに行った時や、 デイケアで他の人と一緒の行動をした日は疲れが特に強かったそうです。

 

フェリチンが 17.8ng/ml と低く、 貧血の治療をし、 フェリチンが30ng/ml 台の時ヘム鉄の服用を増やして症状はさらに改善してゆきました。 この方は、 医師の話を素直に聞き、 自分の症状に戸惑いを覚えながらも、 栄養素をしっかり服用して、 治療を開始してから約 3年が経ち、 だんだん症状はよくなり、 精神科の主治医と相談しながら減薬しています。 月経前の緊張はビタミン E の服用で和らいできました。 胃腸が弱く、 下痢になることが多いので、 DNA を追加し、症状が軽くなりました。

 

栄養治療:プロテイン 6g/ 日、 ナイアシン 3g/ 日、 ビタミン B コンプレクス 150mg/ 日、 ヘム鉄 32mg/ 日、 亜鉛 30mg/ 日、 カルマグ (カルシウムで ) 200mg/ 日、 ビタミン E400IU/ 日、 DNA・RNA520mg/ 日、 ビタミン C 3g/ 日

サンプル 14.(パニック障害と糖尿病を伴う低血糖症)

男性 38 歳、 来院時、 頭痛とイライラ感が強い。

低血糖症の症例_54

血液検査数値:
WBC:6,860/RBC:503/Hb:16.8/Ht:51.9/MCV:103/MCH:33.4/MCHC:32.4/血小板 :23.4/TP:8.0/ALB:5.0/AST:38/ALT:74//T-cho:292/HDL-cho:51/β-Lp:634/TG:142/UA:5.2/BUN:15.5/CREA:0.81/Fe:97/ フェリチン :112.2/
HbA1c:5.1

小学生の頃より不登校気味となり、 19 歳に統合失調症となり通院治療を受けていました。 スーパーや養護施設の手伝いなどに行きますが、 いずれもパニック状態となり、 1 年間内外で辞めました。幻聴に悩み、ナイアシンの幻聴に対する効果の文書を見て当院受診。糖負荷試験を行いました。

 

血糖曲線は負荷後 1 時間値が 241mg/dl まで上昇する糖尿病で、その後、 急落をたどり、 4 時間で 56mg/dl にまで下がります。 こうした乱降下により分泌されたアドレナリンやノルアドレナリンの影響によって、 前頭葉が麻痺し、 大脳皮質の機能低下に加え、 大脳辺縁系が興奮するといった脳の機能のバランスを失い、 パニック状態となったと考えられます。 この患者さんは、 低血糖症の食事と運動療法に加え、 栄養治療を行うことで、 幻聴も聞こえなくなり、 少しずつ体調も改善し、 怒ることも少なくなってきました。

 

栄養治療:ナイアシン 3g/ 日、 ビタミン B コンプレックス 150mg/ 日、
プロテイン 30g/ 日、 ビタミン C 3g/ 日、 ベイスン (医薬品) 0.2mg
3T/ 日、 エパデール (医薬品) 1200mg/ 日

血液検査項目の単位
WBC /μl  ALP U/l
RBC 万/μl  AMY U/l
Hb (血色素量) g/dl  T-cho mg/dl
Ht %  HDL-cho mg/dl
MCV fl  β-Lp mg/dl
MCH pg  TG mg/dl
MCHC %  UA mg/dl
血小板 万/μl  BUN(尿素窒素) mg/dl
TP g/dl  CREA mg/dl
ALB g/dl  Fe μg/dl
AST U/l  フェリチン ng/ml