カリウム
成人の体内には約120g のカリウムがあり、そのうち116g(98%)が細胞内にあります。カリウムは神経、心臓、筋肉の細胞の機能にとって重要な要素です。低カリウム血症は筋肉のこむら返りの原因となり、高カリウム血症は心臓停止の要因ともなります。カリウムイオンとナトリウムイオンはブラザーイオンと呼ばれ、協調してはたらきます。体内の酸とアルカリの平衡を保ち、浸透圧も維持する重要な役割を担います。
はたらき
血液中にナトリウムが増えると、細胞内の水分は血液中に移行して血液量が増え、その圧力で細胞が縮む傾向にありますが、カリウムが浸透圧を調節して細胞の大きさを保つはたらきをします。
細胞膜の内側は負の電位に保たれていますが、電位が変動したときカリウムは自由に膜を通過し、膜の電位を元に戻して安定させ細胞の活動を維持しています。
タンパク質合成、ブドウ糖の吸収と合成、グリコーゲンのグルコースへの分解、インスリン作用促進、そのほか多くの酵素を活性化するはたらきがあります。
カリウムイオンは水とよく親和するため、細胞中の核酸やタンパク質などを安定させるはたらきがあります。
カリウムイオンが細胞内外へと移動をすることで、血液のpH は一定に保たれます。
カリウム濃度の調節
細胞内のカリウムの濃度は、次のようなメカニズムにより調節されています。
細胞膜には、細胞内にカリウムを取り込み、ナトリウムを細胞外にくみだす「ナトリウム―カリウムポンプ」と呼ばれる機構があり、細胞内のカリウム濃度は一定に保たれています(281 ページの図を参照)。インスリンやアドレナリン、ノルアドレナリン、アルドステロン( 注1) はこの作用を促します。マグネシウムが不足するとこれがうまくはたらかなくなるために、細胞内のカリウム濃度が減少します。
小腸で摂取されたカリウムイオンのうち、70 ~ 80%は腎臓で排泄されます。通常は近位尿細管でほとんどが再吸収されますが、血液中にカリウムイオンが多いと遠位尿細管で再び排泄される量が増えます。
ステロイドホルモン、グリチルリチン製剤( 注2)、アルドステロン、アドレナリンやノルアドレナリンも腎臓におけるカリウムの排泄を促します。
低血糖症やストレス時に低カリウム血症がみられるのはこのためです。
不足すると
血清カリウムは、3.5mEq / L 以下を低カリウム血症といいます。3.8 mEq / L 以下で不足傾向にあるといえます。インスリン過剰症、低血糖症、下痢、野菜不足などで低カリウムを招きがちです。カリウム不足で次のような症状が起こるリスクが出てきます。
筋力低下(脱力、四肢麻痺)、便秘、麻痺性イレウス( 注3)、不整脈、腎臓の尿濃縮力低下(多尿、口渇、多飲など)、知覚異常、高血圧( 注4)
過剰症にも注意
血清カリウムが6.0mEq / L 以上を高カリウム血症といい、5.5mEq / L 以上では過剰傾向にあるといえます。ただし、日常では高カリウム血症はまれで、低カリウム血症のほうが多く見られます。
注釈
副腎皮質ホルモンの1 つ。コレステロールから生合成される。腎臓の尿細管などに作用して、カリウム再吸収の抑制、ナトリウムと水分の再吸収、リン酸の排泄などを促し、体液の浸透圧調節に関与する。
注2
漢方薬での甘草など。
注3
腸管の内容物が肛門側に送られることが阻害されている状態。腸閉塞や腸捻転。
注4
ナトリウムイオン濃度に対するカリウムイオン濃度が低下すると、高血圧が起こりやすい。