葉酸
葉酸は緑黄色野菜から抽出されたもので、タンパク質などの生合成に関与しDNA 合成や細胞分裂にとって極めて重要なビタミンです。動脈硬化のリスクを高める高ホモシステイン血症( 注1) は、葉酸の欠乏が原因となります。野菜のほか、海藻類、豆類、レバー、卵黄などに多く含まれています。また、葉酸はタンパク質と結合して、細胞の中の細胞核へ運ばれ、そこでDNA の材料である塩基を作ります。
はたらき
適量を摂取することで胎児の発育障害や出産障害を予防できる。
尿酸の産出に寄与する酵素であるキサンチン酸の作用を妨げる。
ドーパミン、セロトニンなどの神経伝達物質の代謝に関与。タンパク質と結合した葉酸は脳内まで運ばれて、神経細胞の信号のやりとりに関わるリン脂質を修復する。特に亜鉛欠乏による神経疾患には有用との報告がある。抑うつ症状やアルツハイマー病の患者では血液中の葉酸の濃度が低いとの報告がある。
体内では活性酸素の影響でDNA のコピーミスが発生するが、葉酸はこのコピーミスを修正するはたらきをし、がんを予防する。
その他、心臓病や脳卒中の予防、核酸(DNA、RNA)の合成に関与、細胞分裂に関与、脳の発育を促進、歯周病の予防と治療などのはたらきもあります。
不足すると
葉酸は偏食による摂取不足が起こりがちです。腸内細菌による破壊や、睡眠薬、サルファ剤( 注2)、エストロゲン、アスピリンなどの薬物により、また体質により吸収障害も起こることがあります。欠乏するとさまざまな症状が出ますが、大きな問題としては次のようなものがあります。
• 巨赤芽球性貧血
• 胎児や乳幼児の成長不良、脳細胞の分化不良
• 胎児の二分脊椎や無脳症などの神経管閉鎖障害のリスクが高くなる
• 高ホモシステイン血症をおこし、脂質異常症、動脈硬化、うつ( 注3) のリスクが高まる
摂り方
葉酸はビタミンB12 と協力してはたらき、どちらが不足してもよく機能しないので両方の摂取が重要です。葉酸は植物性食品に、ビタミンB12 は動物性食品に多く含まれます。
また葉酸は、ほかにビタミンB6 とビタミンCも必要とします。ビタミンB6 は赤血球形成に関与し、ビタミンC は葉酸を活性化させるはたらきがあります。
妊娠と葉酸
葉酸は細胞の分裂や成熟の際に作用する、とりわけ胎児の発育にとって重要な栄養素です。葉酸の摂取が、新生児の無脳症や二分脊椎症などを予防することがわかってきています。
ただし、こうした神経管閉鎖障害が起こるのは妊娠4 週までのきわめて早い時期。「おめでた」がわかってから、あわてて摂っても間に合いません。そこで厚生労働省は「妊娠前1 か月」から「妊娠後3 か月」にかけて「普段の食事に加えて、サプリメント等で葉酸を毎日400 μg以上摂る」ことを推奨しています。
また、葉酸の不足は胎盤早期剥離や流産、死産、妊娠高血圧症候群の原因の1 つとしても知られています。
ひよこ豆は葉酸の他にもビタミンB6、鉄、食物繊維も多く含む食品です。葉酸は妊婦さんだけが必要な栄養素ではなく、新陳代謝に関わるため全ての人に必要です。
注釈
血中のホモシステイン値が上昇する病気。血小板が凝集され血栓などが生じやすい。
ホモシステインとは、必須アミノ酸の1 つであるメチオニンが代謝されるときに一時的にできる物質。
ホモシステインは、葉酸、ビタミンB6、B12 の欠乏によって高値になる。
注2
化学療法薬の1つ。細菌の葉酸合成を阻害する作用がある。
注3
ビタミンB1 とB6 と葉酸は、ともにドーパミン代謝に関与している。